トイレで小便器の前に立ったときお隣の方に比べて、スタートが遅い、終わるのが遅い、
お隣に比べて音が小さい、尿が散る、最後がポタポタしか出ない、終わっても残った感じがして
すっきりしない事などありませんか?また尿意のため足しげくトイレに通う、夜中に排尿に起きる、
などはありませんか?
前立腺肥大症の症状の一部です。
前立腺肥大症
前立腺とは:前立腺は膀胱の下で尿道を取り囲むようにして存在する臓器です(図)
働きは精液の大部分であるである前立腺液をつくります。
また前立腺液は精子を保護しエネルギーを補充します。
なぜ肥大するのか
:はっきりした原因はわかっていません。
ただ、加齢と性ホルモンが関係することは確かなようです。また食生活の欧米化も関係し、
現在では80歳までに日本人男性の80%が前立腺肥大症になるといわれています。
前立腺癌との関係:癌は際限なく広がり、しいてはそれ自身で死に至る病気です。
肥大症は癌のように他の臓器をおかしたりはしませんが、その内部を通る尿道を圧迫して、
尿の出方に関係します。
前立腺肥大症の進行段階(ギイヨンの分類)
T期(刺激期):前立腺肥大症の症状があるも残尿がない時期
U期(残尿期):前立腺肥大症の症状があり、かつ残尿がある。
V期(尿閉期):多量の残尿が膀胱に残ったままの時期です。
前立腺肥大症の診断
問診が非常に重要です。
大きくても症状の軽い人や、逆に小さくても症状の強い人がいます。
ややわかりづらい点もありますが”国際前立腺症状スコア”も参考になります。
超音波検査ー超音波を当てて前立腺の肥大を見る方法です。
前立腺の大きさ、形、残尿などを痛みを伴わず知ることが出来ます。
この時点では苦痛を伴う膀胱鏡や尿道造影などは必要ありません。
直腸診ー直腸から指を入れて直腸壁ごしに前立腺の指診を行います。
前立腺のおよその大きさ・表面の固さと凹凸・形状・痛みの有無などを調べます。
また前立腺炎の場合はその後の検尿により前立腺液内の白血球などを知ることができます。
手術が必要な場合は膀胱鏡検査、膀胱内圧検査、腎盂造影なども行われます。
前立腺癌との鑑別ー直腸診でわかる場合もありますが多くはPSAを測定して、 基準値以上であれば組織の検査で行います。
前立腺肥大症の治療
治療法の歴史:「前立腺肥大症に関しては、30年ほど前までは
開腹手術により核出することが殆どであったが、光学技術の発達により、
内視鏡による経尿道的前立腺切除術(TUR-P)がこの30年間の主流となっていた。
ところが,10 年くらい前からα-ブロッカーが汎用されるようになり、
前立腺肥大症の手術は開腹、TUR-P ともに減少してきた。”すなわち,前立腺肥大症の手術をしなくても排尿状態は改善されるようになってきた。”」と
第48 回日本老年医学会学術集会で北村唯一 東京大学泌尿器科教授は述べておられます。
現在、治療法は大きく分けて、手術療法、薬物療法、姑息的治療、経過観察となります。
手術療法
他に詳しいページがありますので詳細は省きますが、症状によりますが一般にU期(残尿期)の中位以上が適応とされています。
標準的な治療はTUR-P(経尿道的前立腺切除)でしたが、現在ではレーザーを用いるPVP(光選択的前立腺レーザー蒸散術)やHoLEP(経尿道的ホルミニウムレーザー前立腺核出術)が主なものとなっています。
PVP(光選択的前立腺レーザー蒸散術)では用いる緑色レーザー光に特色があり、水にはほとんど吸収されない一方、血液中の酸化ヘモグロビンに選択的に吸収され、強い熱エネルギーを生じさせる特性があります。
内視鏡を使って血流の豊富な前立腺組織にこのレーザー光を照射すると、組織は瞬時に加熱・蒸散され、同時に蒸散部の表面に1-2 mm程度の薄い凝固層ができます。
緑色レーザー光による肥大組織の強大な蒸散効果と確実な止血凝固効果が期待されます。
HoLEP(経尿道的ホルミニウムレーザー前立腺核出術)ではやはり内視鏡を用いて、レーザーファイバーと呼ばれる機器を前立腺の内側(内腺)と外側(外腺)の境目に挿入し、ホルミウムヤグレーザーという種類のレーザー光を照射し、肥大した内腺(腺腫)を外腺から切り離します(核出)。
核出され膀胱内に移動した腺腫を別の機器で細切・吸引して摘出します。
いずれも用いる還流液の性状より水中毒が少なく、出血が少なく、術後の疼痛の軽減、カテーテル留置期間の短小に利点があるとされています。
その他温熱療法、風船を用いる尿道バルーン拡張法、尿道ステント留置法や外国で再び行われるようになった凍結療法などもありますが治療成績はやや不確実です。
薬物療法
大部分の人はT期ないしU期ですので薬剤による治療になります。
α1ブロッカー(商品名:ハルナール、フリバス、ユリーフ)
薬物の中ではα1ブロッカーが今も最もよく使われます。
α1ブロッカーは尿道周囲の平滑筋をリラックスさせ尿道の抵抗を減らし、
排尿困難や尿線の細さや頻尿、残尿が軽減させます。
内服薬であるため、手術療法とは違い即効性はありませんが、数日程度で改善が見られるようです。
このα1ブロッカーは約60%の前立腺肥大症の患者さんに効果があるといわれています。
前立腺を小さくさせる効果はありません。
PDE5阻害剤(商品名:ザルティア)
以下の作用機序により排尿および蓄尿症状を改善するとされています。特に畜尿症状の改善に有効な印象です。
血管平滑筋のPDE5を阻害して血管を拡張し膀胱組織障害を改善する
内尿道括約筋(=膀胱頸部平滑筋)、外尿道括約筋、前立腺平滑筋のPDE5を阻害して膀胱出口部閉塞を改善する
膀胱過伸展、膀胱血流障害、炎症・酸化ストレス等により亢進した求心性の神経活動を抑制する
5α還元酵素阻害薬(商品名:アボルブ)
前立腺肥大症と男性ホルモンの関係は密接な繋がりを持っているため、抗アンドロゲン剤で男性ホルモンの働きをコントロールして治療します。抗アンドロゲン剤では、前立腺の腫瘍自体が縮小するということが大きな特徴です。
抗アンドロゲン剤の治療は半年以上の治療期間が必要です。
その他に古くから用いられている、いわゆる前立腺薬といわれるアミノ酸製剤や植物エキス剤や漢方薬が挙げられます。
アミノ酸製剤や植物エキス剤は副作用が少ないといわれています。これらは、響きはいいのですが効果の程は未知数であるのが現状です。どのように効くのかというのがはっきりしておりません。
ただし人によっては非常に有効なこともあります。
前立腺肥大症と過活動膀胱や神経因性膀胱との関係:前立腺肥大症の薬を服用しても
頻尿や尿意切迫、失禁などが良くならないことが多々あります。
原因はいろいろですが過活動膀胱や神経因性膀胱が関係していることが多いようです。
薬剤の選択や開始の順序などに泌尿器科的な知識と経験が必要です。
ぜひ泌尿器科の受診をお勧めします。
結論
前立腺の大きさと排尿障害には直接の関係は薄い場合が多く、
非常に大きくても排尿障害のない人もいるし、小さくても排尿障害の強い人もいます。
およそ手術療法は根治的ですが、その効果は排尿困難を除くだけと考えてよく、
またどの手術法も内部に火傷を作るわけですから副作用は必ずあると考えるべきで、
手術で得られるメリットの方が大きいか、その他の症状、たとえば頻尿などは残らないか、
納得がいくまで主治医の先生とご相談してください。
薬物療法も薬の組み合わせや薬の選択しだいで効果が異なりますので泌尿器科医に
相談してください。