前立腺の解剖
前立腺は膀胱のすぐ下にあり、その中を尿道が通っています。
精液に含まれる前立腺からの分泌液は、精子の栄養になっています。
前立腺は若いうちはクルミほどの大きさですが、多くの人の場合、年齢とともに大きくなります。
前立腺によくみられる病気には、前立腺肥大症、前立腺癌、前立腺炎などがあり、泌尿器科においては非常に重要な臓器です。
前立腺炎
前立腺炎は、前立腺に痛みと腫れが生じる病気です。
前立腺炎の原因は明らかではありません。
細菌性の感染が尿路や血流から前立腺に広がることで、前立腺が炎症を起こす場合があります。
細菌の感染による前立腺炎はゆっくりと発症して再発を起こすこともあれば(慢性細菌性前立腺炎)、
急速に進行することもあります(急性細菌性前立腺炎)。
分類
NIH | 発熱 | 白血球 | 細菌 | 抗菌剤 | |
T | 急性前立腺炎 | ○ | ○ | ○ | 有効 |
U | 慢性細菌性前立腺炎 | X | ○ | ○ | 有効/無効 |
Va | 慢性非細菌性前立腺炎 | X | ○ | X | 有効/無効 |
Vb | 前立腺痛 | X | X | X | 無効 |
NIHの新分類では、T型が急性細菌性、U型が慢性細菌性であり、従来の非細菌性前立腺炎と前立腺痛とが、V型として慢性非細菌性前立腺炎ないしchronic pelvic pain syndrome(直訳すれば慢性骨盤痛症候群)として一括され、それぞれVA、VBとに分類されています。
急性前立腺炎
急性前立腺炎の症状は、急に発症する高度な発熱、頻尿や排尿痛などの排尿症状を症状とします。
検査は、尿検査で尿中に白血球が沢山見られます。また、直腸診をすると、ぶよぶよした圧痛を伴う前立腺を触れます。
治療は抗生物質の飲み薬じゃ弱くて、点滴をした方が早く、確実に治ります。
症状が激烈なのですが、慢性前立腺炎と違って一週間ほどで治ります。
慢性細菌性前立腺炎
細菌感染による前立腺の炎症が緩徐に進行し、症状も慢性型としてあらわれ、様々な自覚症状がみられます。
炎症を生じている前立腺が膀胱と隣接しているため、膀胱刺激症状として、膀胱炎と同様の症状(終末時排尿痛、頻尿、残尿感)、前立腺炎の関連痛としての陰嚢(いんのう)内容、鼠径部(そけいぶ)(股間部)、下腹部、尿道、ペニスの痛み、あるいはそれらの不快感を生じます。陰嚢内容の痛みは、そのほとんどが「睾丸が痛い」と表現します。
一部には性欲低下の訴えも少なくなく、その他多彩な症状を呈します。
診断・治療
前立腺マッサージ後の尿(VB3 前立腺液)に白血球および細菌を証明します。
ニューキノロン系などの抗菌剤を用います。
慢性非細菌性前立腺炎・前立腺痛
成人男性の数割が上の慢性細菌性前立腺炎を含めて一度はかかるといわれています。
ここでは、異論もあろうかと存じますが、NIH分類のVA、VBをあわせて説明させていただきます。
非常にポピュラーな病気ですが原因、病状も多彩であることが特徴的です。また治療後もいろいろな経過をたどるのが特徴です。
生活指導や数回の内服で直る人が大部分ですが、中には年から年中症状の消えない人までいろいろです。
明確な原因は不明ですが、ただ、病因を感染症に求めるのではなく、排尿障害などの物理的刺激が原因と唱えている人もいます。
この病気はまた前立腺痛 、前立腺症 、陰部神経症 、骨盤内静脈うっ滞症候群 、慢性骨盤疼痛症候群 などともいわれています。
症状
頻尿・残尿感 、尿道不快感(特に前部尿道の痛み)、会陰部の疼痛 、陰嚢痛(精巣、精巣上体、精索)、下腹部疼痛 、恥骨裏疼痛 、大腿部不快感(しびれ・痛み)、腰痛・背部痛 、足裏不快感(しびれ・痛み) 、射精後疼痛 やまれに持続性の血尿の方までいろいろです。
検査
超音波による前立腺の腫大や精嚢腺の異常、骨盤腔内のうっ血の検査
尿検査: 尿路感染の有無を調べる。 前立腺マッサージ後の尿検査(VB3)による 前立腺液の中の白血球や細菌の有無を調べる。
上記の検査で細菌感染が否定された時に、非細菌性慢性前立腺炎と診断される。
また直腸診による骨盤底筋の緊張なども注意する。
通常、前立腺マッサージ後の前立腺液に白血球を証明するのが慢性前立腺炎の証拠になるのであるが、最近慢性前立腺炎の患者グループと健常者グループにおいて前立腺マッサージ後の検尿を比較したところ、前立腺炎患者と健常者の白血球変わらないとの報告も米国から出ており、前立腺液中の白血球証明の存在価値が問われることになっています。
治療
治療はケースバイケースである。
生活指導、排尿障害起因を考えてα-ブロッカー剤 、定番であるセルニルトン の処方。
そのほか細菌などの感染症が疑われる場合はニューキノロン系抗菌剤の処方などが支持されています。
その他骨盤腔内のうっ血を考えて漢方薬 もあげられています。
また精神的要素を考えて精神安定剤や抗うつ薬 の処方もあげられています。
米国では慢性骨盤疼痛症候群に対して、精神的ケアと骨盤底筋の緊張を解す体操を指導する大学病院も現れているとのことです。
多くの人は詳しい病状の説明および薬剤の服用にて改善するのであるが、なかには非常に頑固な症状が続く人がいることも、また事実です。